300年の商いで、変わらなかったもの
江戸の問屋制度から現代のBtoB ECまで、企業間の商いは何度も道具を替えてきました。それでも変わらずに残り続けているものを、歴史の側から眺めてみます。
BtoBの世界に長くいると、新しい仕組みを見るたびに既視感を覚えることがあります。調べてみると、たいてい江戸時代に原型がありました。
帳合——「つけ」で結ばれた取引網
江戸の問屋と小売は、現金ではなく帳簿上の貸し借り(帳合)で商いをしていました。盆と暮れにまとめて精算する「節季払い」は、現代の「月末締め翌月末払い」の直系の祖先です。
つまり掛け売りは、300年前からこの国の企業間取引の標準でした。信用で時間差を埋めるという発明は、それだけ強靭だったということです。
のれん——ブランド以前のブランド
「あの店ののれんなら間違いない」。のれんは商品の品質保証であり、取引先への信用の証でもありました。今の言葉でいえばブランドですが、面白いのは、のれんが個人ではなく屋号に蓄積されたことです。
番頭が代替わりしても、のれんの信用は続く。属人的な信頼を組織の信用に変換する仕組みを、江戸の商人はすでに持っていました。今日の企業が悩む「営業の属人化」への一つの答えが、ここにあります。
変わったのは道具、変わらないのは骨格
大福帳がFAXになり、FAXがECになりました。飛脚が電話になり、電話がチャットになりました。道具は何度も替わっています。
商いは牛のよだれ——細く長く、途切れさせないことが肝要。
古い商人の格言です。一回の取引の利幅より、継続する関係の総量を取る。この骨格は、道具がどれだけ替わっても変わっていません。むしろサブスクリプションやリテンションといった横文字で、いま再発見されているところです。
歴史は懐古ではなく、選球眼
なぜ古い話を書くのか。変わらずに残ってきたものを知っていると、新しい仕組みを見たときに「これは道具の交換か、骨格の変更か」を見分けられるようになるからです。
道具の交換は速く進み、骨格の変更は世代単位でしか進まない。この選球眼こそ、300年の商いの歴史がくれる実務的な道具だと思っています。